性状

ビブリオの形態比較
左:コレラ菌の模式図。典型的なビブリオの特徴であるコンマ状の桿菌で太い単毛性鞭毛(極鞭毛)を持つ。
右:腸炎ビブリオの模式図。形状は真っ直ぐで極鞭毛の他に細い周毛性鞭毛を持つ。腸炎ビブリオはコレラ菌と同様、ビブリオ科ビブリオ属に属するが、いくつかの点でコレラ菌に見られるような、いわば古典的なビブリオの細菌学的な特徴とは異なった点を持つ。腸炎ビブリオは0.3×2µm程度の大きさで、菌体はコレラ菌に見られるような湾曲(全体としてコンマ状に見える)を示さず、真っ直ぐな形態の桿菌である。またビブリオ科の細菌は腸内細菌科と同様、通性嫌気性でブドウ糖を発酵するグラム陰性菌で、菌体の一端に一本の鞭毛(極鞭毛)を持つ点で腸内細菌科とは区別されるが、腸炎ビブリオにはこの極鞭毛の他に、これよりも細くて菌体の周囲全体に生えている周毛性の鞭毛を持つ点でコレラ菌などと異なる。ただしこの周毛性鞭毛は培養条件などによって失われることがある。この他、ショ糖を分解しない性質などから他のビブリオ属の細菌と鑑別される。ちなみに、ビブリオ(Vibrio)とは、バイブレーション(To vibrate)を意味するラテン語で、鞭毛が激しく振動する性状から名づけられた。

増殖に至適なpHは約7.5-8で、比較的アルカリ性を好む点ではコレラ菌と同様である。ただし、塩化ナトリウムを含まない培地でも増殖可能なコレラ菌とは異なり、増殖には1-8%の塩化ナトリウムを必要とする(ただし血液寒天培地には、塩化ナトリウムがなくても増殖可能)。海水中では、水温が20℃以上のときに活発に増殖するが、15℃以下のときには増殖が抑制される。このことは本菌による食中毒が主に水温の高い夏期に集中することと符合する。低温、高温、真水、酸による処理に弱い。

腸炎ビブリオは大小二つ(3.2×106と1.9×106塩基対)の染色体を持つが、これは細菌が複数の染色体を持っている最初の例として発見された。それまで細菌は一つの染色体のみを持つと考えられていたが、この発見以降、腸炎ビブリオやコレラ菌など、ビブリオ属の細菌は例外的に二つの染色体を持つことが明らかになった。

腸炎ビブリオは増殖の早い細菌の一つとしても知られ、至適な培養条件下ではおよそ10分間に1回の割合で分裂する。これに対して、例えば大腸菌は20-30分間に1回の割合で分裂するが、細菌はn回の分裂で2n個に増殖するため、同じ4時間後には1個の大腸菌が約4000個になるのに対して、1個の腸炎ビブリオは100万個以上に増殖する計算になる。
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