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染色体 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 移動: ナビゲーション, 検索 染色体(せんしょくたい)は遺伝情報を担う生体物質である。塩基性の色素でよく染色されることから、1888年にヴァルデヤー (Heinrich Wilhelm Gottfried von Waldeyer-Hartz) によって Chromosom と名付けられた。Chromo- はギリシャ語で「色のついた」、-some は「物体」を意味する。
染色体は非常に長いDNA分子がヒストンなどのタンパク質に巻き付きながら折り畳まれた構造体である。真核生物では核内に保持されている。染色体には歴史的な理由からいくつかの定義がある。原義では、細胞周期の分裂期に見られる凝縮した構造体を指す (1)。一般的に染色体の形態として認識されている X 状の構造(右図参照)はこの時期のものである。形態や細胞周期に関わらず、真核生物の細胞にあるDNAと塩基性タンパク質のヒストン、およびその他の多様なタンパク質からなる生体物質を指す場合、これはクロマチン・染色質の意味も含む (2)。さらに広義には原核生物やミトコンドリアなどの細胞小器官が持つゲノムも含む (3)。ウイルスのゲノムも染色体と呼ぶ場合がある。通常プラスミドは含まない。本項目において断りがないばあいは (2) の意味での説明とする。
目次 [非表示] 1 染色体の構造 2 染色体の各部位 3 染色体に結合する因子 4 細胞周期における染色体の変化と挙動 5 生物種による染色体数の違い 6 染色体研究史 7 関連項目 8 資料 8.1 種ごとの染色体数の例
[編集] 染色体の構造 染色体の基本構成要素はDNAとヒストンである。一本の染色体には一本のDNAが含まれている。DNAは非常に長い物質であり、細胞核に収納するには折り畳む必要がある。DNAは核酸なので酸性であり、塩基性タンパク質のヒストンとの親和性が高く、全体的には電荷的に中和され安定化している。DNAとヒストンの重量比は、ほぼ1:1である。
最も基本的な構造はヌクレオソームである。8つのヒストンタンパク質からなるヌクレオソームヒストン(コアヒストン)は、約150塩基対のDNAを巻き取ることが出来る。ヌクレオソームの間にはヒストンH1(リンカーヒストン)が結合する。最も低次のヌクレオソームと、分裂期に見られる最も高次の染色体形態の間にあるクロマチン構造についてはあまり研究が進んでおらず、いくつかのモデルが提唱されているものの詳しいことは不明である。ただし、ヌクレオソーム構造はさらに凝集し、直径30nmの繊維となり、通常は顕微鏡下では見えないが、細胞分裂中期に現れる糸状の物体として確認できる。基本的にはこのような繊維が螺旋状に巻き、折り畳まれることによって高次化していく。この過程には、コンデンシン複合体やトポイソメラーゼIIが関与していることが知られているが、その詳細な分子メカニズムはよく分かっていない。
クロマチンには、大きく分類してユークロマチン(euchromatin)とヘテロクロマチン(heterochromatin)の二種類がある。ユークロマチンはクロマチン構造がゆるまっており、転写されている遺伝子はこの部分に多く存在する。ヘテロクロマチンは密に凝集しており、この領域ではあまり転写が起きていない。この部分は、染色体の構造上の変化に際して何らかの役割を負っていると考えられている。ヘテロクロマチンは更に次の二つに分類することができる。遺伝子の発現はほとんど見られない構成的ヘテロクロマチン(constitutive heterochromatin)と、条件によっては遺伝子の発現が見られる条件的ヘテロクロマチン(facultative heterochromatin)がある。前者は主にセントロメア付近にあり、この領域の DNA は繰り返し配列に富む。
[編集] 染色体の各部位 染色体: (1) 染色分体:染色体に含まれる2つの同一の部分のうちの片方 (2) セントロメア: 2つの染色分体が接合する場所で、ここに微小管が結合する (3) 短腕 (4) 長腕染色体は二つの染色分体からなる。染色分体どうしが接合する場所はセントロメアという。核分裂のときにはここに微小管が結合し、両極へ牽引する。セントロメアをはさんで長い側を長腕、短い側を短腕という。染色体の末端部はテロメアと呼ばれる特有の構造をしている。
[編集] 染色体に結合する因子 染色体には多くの転写因子が結合している。RNAポリメラーゼのように基本転写因子と呼ばれるタンパク質複合体や、特定の遺伝子座に結合しその遺伝子の発現を制御するもの、クロマチンの状態を維持または変化させるものなどがある。染色体の高次構造を制御する因子の中で代表的なものには、染色体凝縮に関わるコンデンシンや姉妹染色分体の接着に関与するコヒーシンがある。他にDNAの切断を見張りDNA修復に関わったり、染色体末端テロメアの構造を維持するタンパク質もある。
[編集] 細胞周期における染色体の変化と挙動 分裂中の細胞における染色体(青)と紡錘体(緑)。 DNAの凝縮の各段階: (1) 裸の二本鎖 DNA (2) クロマチンの鎖: DNA(青線)とヒストン(緑丸) (3) 間期の凝縮したクロマチン(青線)とセントロメア(赤点) (4) 分裂前期の凝縮したクロマチン (5) 分裂中期の染色体有糸分裂の最初のステージでは、核膜の消失に前後して、クロマチン鎖が次第に凝縮していく。この染色体凝縮の過程で、クロマチン繊維は移動可能なコンパクトな形態に変化する。凝縮の最も進んだ分裂中期では、2つの染色分体(姉妹染色分体)がセントロメアでより強固に結合した形態をとる。細胞の両極から伸びた長い微小管(紡錘糸)はセントロメアに結合する。分裂後期にはいると、姉妹染色分体間の接着が解除され、紡錘糸は各染色分体を細胞の両極に向けて引き離す。こうして、最終的に各娘細胞は1セットの染色分体を受け継ぐ。細胞分裂が完了すると、染色分体は再びほどけてクロマチンとなり細胞核内に収納される。
[編集] 生物種による染色体数の違い ヒトのカリオタイプ(男性)。常染色体は大きい順に並べ、番号で呼びあわらす。ある生物の二倍体の染色体を調べたいとき、コルヒチンで細胞を処理し細胞分裂をM期で停止させてからギムザ等の染色を施し、凝縮した染色体の数と形状を観察する。こうして撮影された染色体を並べたものが、核型(カリオタイプ karyotype)(カリオグラム karyogram とも呼ばれる)である。
カリオタイプは種ごとに一定である。例えば、ヒトの2倍体細胞は、22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持つ。性染色体の組み合わせは女性では2本のX染色体、男性ではX染色体とY染色体1本ずつとなっている。女性の2本X染色体のうちの片方は不活性化されており、顕微鏡下ではバー小体として観察される。
無性生殖で増殖する種の細胞は染色体を1セットしか持たず、その生物の全細胞についてそれが言える。有性生殖を行う種は、二倍体 [2x] かまたは多倍体 [Nx] の体細胞と、半数体の配偶子 [n = x の整数倍]を持つ。二倍体は2セットの染色体で、1セットが父親由来でもう1セットが母親由来である。多倍体は3セット以上の染色体を持ち、1倍体は1セットしか持たない。哺乳類では、受精において雄と雌の配偶子が融合すると、その時点ではまだ二倍体の卵細胞が減数分裂を起こし、受精卵の成熟化がおこる。減数分裂の過程で、母親と父親の対応する染色体同士は交叉を起こしてお互いに部分部分を交換する。このようにして、片親からの染色体をそのまま次の代に渡すのではなく、新しい染色体が作られるようになっている。一倍体は単相、二倍体は複相とも呼ばれる。
なお、男性の持つY染色体はかつて、その大きさや遺伝子の位置などがX染色体と異なることから、減数分裂時の遺伝子の組み換えを起こさない、変異しづらい不活性なものとされてきた。しかし最近では、Y染色体においてもX染色体との交叉による乗り換えが起こっていると考えられている。またY染色体内で、自身の遺伝子の位置が入れ替わっていることが明らかになるなど、実際にはY染色体の変異は比較的頻繁に起きていることがわかっている。
[編集] 染色体研究史 染色体は1842年にカール・ネーゲリ (Karl Wilhelm von Nägeli) によって発見された。1888年その物質を「染色体 (chromosome) 」と命名したのはヴァルデヤーである。1902年にウォルター・S・サットンにより染色体が遺伝子の担体であるとする染色体説が提唱され、1920年ごろまでにはモーガンらにより実証された。
ハエ目昆虫のショウジョウバエやユスリカの幼虫のだ腺染色体(唾液腺細胞中の染色体)は通常の体細胞の染色体とは異なり、多糸染色体とよばれている。この染色体は例外的に、顕微鏡下でよく観察することが出来る。モルガンらによる初期の遺伝子研究では、主にショウジョウバエのだ腺染色体を材料として染色体上の遺伝子の位置が決定され、染色体地図が作成された。これらの成果は近年のホメオボックス遺伝子などショウジョウバエを材料とした遺伝子研究の基礎をなすものとなったばかりでなく、遺伝学全般の基礎をなしていると言える。
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